「線引きに関して」

 

 ある対象を自己にとって聖域にする、いわば神格化するときには当然ながら「線引き」という行為が必要になろう。この意味で、線引きというプロセスは極めて重要なものとなる。しかし、線引きという行動はわれわれ人間にとって極めて日常的なものである。私たちは、対象の如何によって反応・行動を変える。これも一種の線引きといえるではないだろうか。それとも、線引きによって明確に行動が決定付けられるのか。どっちであろう。そこで、線引きというものを2面的に捉えて考察を加えてみたい。

私は、この両者は同じように見えるがレベルの違うものであり、同時進行的に起こるものと解する。対象が知覚され、認識されるとき、思考あるいは嗜好によって、「この対象は〜だから、こうしよう。」ということが決定される。この場合、認識される対象がインプットとなり、こうしようという行動がアウトプットになる。問題は、主体が何を考えて、インプットをアウトプットに変換するか。ということである。これ(波線部分)が、価値基準であり、価値観というものであり、そして線引きの核を担う。この価値基準によってもたらされる行動の決定、即ち選好を、A.「無意識の線引き(受動的な線引き)」とすると、こちらの方は全てのものに対して線引きを行っているということになる。なぜなら、普通の人間ならインプットがあって、アウトプットがない(これは当然ながら全く無反応である、ということを意味しない)ということは、ありえないからである。ポジティブ(ネガティブ)な行動をとる、あるいは何らの反応を示さない、これ以外の反応は、ない。

対して、B.「意識的な線引き(能動的な線引き)」と定義される場合はどうであるか。けだし、こちらはその主体が特に重要と考えるものと他のものとを明確に区別したい時に、行われる場合が多いであろう。したがって、全く日常的な「無意識の線引き(受動的な線引き)」に対して、それはどちらかといえば非日常的であって、その数即ち基準というものは多くない。つまり、その主体の価値基準の核となる部分が表面化されたものであると考えてよい。逆にいえば、そうであるが故にこの線引きというものは非常に「個的」、別の言葉を用いれば「強力」である。強力であるということは、他に対して説得力を持つということではなく、単に主張的になる。厄介なのは、それが絶対的な響きを持って他に受け入れられるということと、本人もそれを絶対的であると信じている場合が多いことである。しかし、いくらある主体が絶対的であると思ったとしても、他の主体にも普遍性がなければ絶対的であるとは言えないと考えるのが自然である。「自分にとって絶対だ」という物言いは、対立すべき他者の存在によって相対化される。この場合の絶対性という概念は、普遍性を示しているのではなく、何者にも変えられないという個性をこそ指している、と解すべきである。

次に両者を比べてみるに、@価値基準の領域としては全てのものを対象とするAの方が当然ながら大きい。Bは、Aの核となるものが抽出されたものであるから。A線引きの明確さに関しては、Bが明らかに強い。なぜなら、Bの線引きによってもたらされる行動は「全か無か」の行動になるからである。Bインプットとアウトプットに与える影響に関して。Aは、インプットに対しては何らの影響力を持たない。与えられたインプットに対してまさしく受動的にアウトプットを生成する。対してBは、その主体が取り込もうとする、或いは将来取り込むであろうインプット自体に影響を与える。これこそが、「能動的」たるゆえんなのだが、なぜならすでに線引きによって「何をよしとして、何をよしとしないか。」という答えが明確に出ているからである。またアウトプットに対しても、先程の「全か無か」という特徴が色濃く出て、受け入れるか、拒否するかという、ドラスティックなアウトプットになる可能性が高いと推測される。以上のような点からみても、インプット・アウトプットに及ぼす影響力は、比べ物にならないと考えてよさそうである。

以上のような考察を通し、私がまとめとして考えたことは、やはり「線引き」という行為は、誰もが持っていて、その人の行動を決定付け、しかも無限に近い多様性をもった「好み」即ち、「真・善・美」の問題を考慮に入れる上で、何らかの有意義な示唆を与えてくれるであろう、ということである。その際に、一つだけ留意したいのは、「線引き」というものが2面的現れをもって私たちに迫ってくるということを忘れてはいけないということであろう。物事に、一つだけしか見方がないと考えることは危うい。別の見方があるかもしれない、という考えのもと対象を捉えてみれば、普段とは違ったように世界が見えてくることだってあるのだから。

 

 

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